日本の旅 | 2010年 | 旅した世界の旅行記 | JUN MATSUO PHOTOGRAPH

2010 日本の旅

2010 日本の旅

ナツヅタに覆われる島

山口・笠佐島/日本
山口県大島郡周防大島町笠佐島
山口県大島郡周防大島町笠佐島
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最大搭乗人員13人の小さな船。片道100円
笠佐島は山口県の周防大島から西へ約2kmの瀬戸内海に浮かぶ島。
人口は県内の有人離島中最も少ない13人で、常時住んでいるのはたったの5人。

島へは周防大島から1日3便運行する漁船のような小船で渡る。往復運賃200円を船頭さんに払えば、商店も自動販売機もない島ではいっさいお金を使うことがない。
瀬戸内海ののどかな海に緑豊かな大自然、聞こえるのはホトトギスの鳴き声だけ。
ブムタン谷にある学校
みかん畑を世話しに週末だけ島に滞在するおじいちゃん
島の周囲は4kmほどで、昔は一周出来ていたようだが、崖崩れで道が寸断され、管理する者もいないので今は荒れ放題になっている。
以前、軽トラでその道を走ってみたが、生い茂る小竹に行く手を阻まれ、頭上からぼとぼと落ちてくる虫に悲鳴を上げてあえなく退散した。
まさかここまでワイルドな場所が日本にもあるとは…。

私は自然に癒されたい時この島の知人を訪ねる。携帯もいっさい触らずのんびり過ごす。
最高のひと時。
何度も来ているが、今回初めてカメラを持って島に行った。そして写真を撮りながらじっくり話を聞き歩いてみた。
ブータンの先生と生徒
立派な村のようで実は空き家だらけ
撮影中
カメラを持つとやっぱり夢中
水と気候に恵まれた島ではだいたいの農作物がなる
押し車の中にはカマなどの農具でいっぱい
笠佐島は離島には珍しく水が豊富であることから、かつて湧き水を利用した稲作が行われていたらしい。今はその面影もない。
島の裏手に広大な水田が広がり、200俵ものお米が収穫されていたとか。
その他にはみかんが有名で、笠佐島を通り柳井市と周防大島を就航していたフェリーで多量に出荷していたと言う。
日が出ているうちは朝から晩まで雑草を抜き、脱水症状になるほど働いていたと。

それが1976年に大島大橋が架かったことにより、フェリーの就航がなくなり出荷が出来なくなってしまった。
便利と思える橋の開通だが、こうして取り残されてしまう島があることを知った。
笠佐島からは仕事や学校にも通い難くなり、その不便さから人々は島を離れて行った。

現在島に残るのは高齢者だけ。
田んぼでの仕事は膝まで水に浸かるため足を悪くする。老人には厳しい仕事、しかも出荷も出来ない。水田の閉鎖は時間の問題だった。
みかんも同じように出荷先を失い、木に虫が入って病気が広がってしまった。
これ以上被害が広まらないようにと木を切り畑は縮小らしい。
島で出会ったおばあちゃんは「みかん畑をやめる時は、我が子を手放すようなものだった」と悲しそうに語っていた。
そして、「あんたのおかげなんで」と話しかけながら泣く泣く木を切ったとか。

そのおばあちゃんは島で最高齢の90歳。
ご高齢なのに何とも鮮明に昔のことを覚えていて、島のことやいろいろな話をしてくれた。
ブムタン谷にある学校
90歳のおばあちゃん(右)と、今は島を出て週末だけ畑仕事に帰ってくるおばあちゃん(左)が世間話をする
おばあちゃんは耳が少し悪く自由に歩き周ることもままならない。
都会で暮らしおばあちゃんを心配する息子さんに呼ばれても「知らないところに行きたくない」と島に留まったらしい。
島には病院もなく老人には不便なことが多い。
高齢者もこの島を去って行く中、このおばあちゃんだけは生れた時からずっとこの島に残っている。

親兄弟を亡くしたおばあちゃんは家を守る
「やっぱりこの島が好きなんですか?」と間の抜けた質問をすると、
「生まれたところだからねぇ」と返された。
何気ない言葉でも、この状況に暮らすおばあちゃんが言うと重みがある。この一言に感動してしまった。
誰よりもこの島にいたいという気持ちが強いのだろう。

おばあちゃんは目を潤ませながら
「島の人が食べ物を持って来たり、家の屋根を修理してくれてね。ちょくちょく様子を見に来てくれるからまだがんばろうと思うんよ」と話した。
暮らしていけるのは皆のおかげ、もう少しがんばろうと。島の人の親切がおばあちゃんの命を繋いでいた。
ここまで感謝されるってすごいな。

うれしくて他の住民にその話をした。
すると、その人たちこそおばあちゃんがいたからこの島に住んでいられると感謝していた。島に移り住んで来た時、島の外から来た者にはいろいろなことがあったらしい。でもこのおばあちゃんは何の偏見も持たずに良くしてくれたとか。
病院のない島で老後を過ごすのは難しいけど、せめておばあちゃんがいるうちは島を出ず面倒を見たいと言っていた。
島の人たちはお互いが助け合って暮らしていた。

でも、この状況がいつまで続くのだろう。おばちゃんがいつまで生きて、周りの人が何年先までおばあちゃんの面倒を見るために島に留まっているのだろう。
放置されたトラックが寂しそうに緑に埋もれている
ナツヅタに覆い尽される廃屋
島の散歩を続けた。
あちこちに農作業用のトラックや田植機などが今は使われず放置されているのを見かけた。決まってそういう農業機械や人のいなくなった廃屋にはナツヅタが這っていて、かつて栄えていた頃を偲ぶようにひっそりと悲しそうに佇んでいた。
ナツヅタは春から夏にかけてきれいな緑に色づき、秋になると紅葉し散る。そして春になると再び芽が出るらしい。
どんどん廃屋の壁を覆い尽くすのだろう。子供のいないこの島はいずれ誰もいなくなり、空き家だらけになる。空き家はこのナツヅタに飲み込まれ、いずれ村ごと緑の中に消えてしまうのだろうか…。